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野田聖子が「信念を曲げた」理由

岸田 徹 【岸コラ】
2005年10月12日(水)

野田聖子 【岸コラ】小泉首相が誕生したのは、森首相の不人気がきっかけだった。KSD事件やえひめ丸転覆事故の時のゴルフなど不人気の原因はいろいろあったが、このままでは自民党は次の選挙では戦えないとの不安が不満になって全国を吹き荒れた。

小泉政権が生れる前の月に、そんな不満が爆発した。永田町の自民党本部で全国幹事長会議が開かれた。自民党の議員は衆議院や参議院の議員だけではない。県議会議員も市議会議員も全国にいる。森総裁では全国の自民党議員が勝てないという不満が、議場を二時間にわたって怒号の渦にした。

橋本派が推した野田聖子首相

その会議の議長をしたのが野田聖子さんだった。

「森首相は予算審議のため、欠席させていただきます」と会議の冒頭説明する野田さんに会場からは、「来られるわけないよ」とヤジが飛んだ。(産経新聞)

この会議の三日前、小泉さんの分身ともいえる飯島秘書官が小泉さんに重要情報を伝達した。

「橋本派が野田聖子擁立で一本化するという情報があります」(産経新聞)

時はすでに「ポスト森」に向って動き出していた。国民的人気が高い小泉さんはポスト森に意欲を持っていながらも、党内の勢力基盤が弱く、首相候補で終わった苦い過去がある。最大派閥の橋本派が野田さんを首相候補に推すとなると手ごわい相手だった。

小泉さんは、記者団にわざと「野田さんはいまや自民党の看板娘だからね」と吹聴し(産経新聞)女性初の首相をマスコミに登場させ芽を摘んだ。

党本部と県連の板ばさみ

野田さんの現在の身辺は実に複雑だ。岐阜県の選挙区は5区あるが、保守王国と言われ、5区とも自民党議員だ。1区は野田聖子、2区は棚橋泰文、3区武藤嘉文、4区は大物の藤井孝男、5区は古屋圭司だったが、そのうちの3人が民営化法案に反対していた。野田さん、藤井さん、古屋さんだ。

自民党の岐阜県連は会長が古屋さんで、選挙前はこの3人を「県連公認」としていた。野田さんのところに刺客の佐藤ゆかりさんが擁立された。佐藤さんが岐阜市役所にあいさつに行った際、市長が握手を拒否した理由は、県連が強力に野田さんを応援していたためだ。

しかし、逆風が吹き荒れる岐阜県に渡った佐藤さんを応援した自民党議員がいた。参議院議員の国際派で通産閣僚出身の松田岩夫氏だ。この動きに対し、県連側は県連の意向に反する行動をとれば処分すると警告した。

選挙の結果は、大物の藤井さんがそれまで比例の当選者だった自民党の金子一義さんに破れたものの、野田さんは刺客の佐藤さんを破り、古屋さんも新人自民党候補を寄せ付けず当選した。

しかし、選挙が終わると大勝利の自民党執行部はすぐに処分をちらつかせた。その結果、岐阜県連の幹事長や総務会長などの県議たち4人はそろって辞任を表明した。武部幹事長は「正しい対処だと思う」と言ったものの「ただ、辞めれば済むという問題かどうかは、調査してさらに考えねばならない」(読売新聞)と引続き脅しをかけた。

会長の古屋さんも辞任の意向を示したが、会長まで不在になると混乱が深まるということで慰留された。武部幹事長はこのことにも「党紀委員会で実態を踏まえた判断がなされると思う」(同)と手を緩めていない。

この状況下で、野田さんは10月9日記者会見を開き、「法案反対という自らの政治的主張は完敗したことを認める」(朝日新聞)との理由で、郵政法案には賛成すると表明した。本会議で、野田さんと古屋さんは賛成票を投じた。

野田さんはさらに、政治献金の受け皿になっている「自民党衆議院第一選挙区支部」を解散するよう党本部から言われ、解散する準備を進めている。(名古屋テレビ)

自分はあくまでも自民党員だと首班指名には小泉さんに投票した野田さんだが、郵政法案に賛成しても党本部の怒りは収まる気配がない。

これが、おかしい。野田さんは郵政民営化法案に最後まで反対し刺客の佐藤さんを破った。つまり、有権者は野田さんの言動を支持したのに、なんで「法案反対という自らの政治的主張は完敗した」などと表明できるのか。自分の主張は有権者に支持されたのだから、一人になっても反対票を投じるのがスジだし、それが本来の野田さんらしい行動だ。

無所属議員で、活動も資金も制限されるのは事実だろうが、だからと言って、支持者の意思を潰すことは自滅行為だ。

郵政法案は隠れ蓑

野田さんの郵政民営化法案反対は、恐らく法案反対以外に大きな目的があったのだろう。それは、次の総理という地位だ。

小泉自民党のあまりの大勝にすっかり隠れてしまったが、選挙前のムードは「ポスト小泉」がうごめいていたのだ。郵政民営化法案で、衆議院の自民党から37人の反対が出て、14人の棄権と欠席を出したというのは異常事態だった。

246人いた自民党の衆議院議員のうち51人が造反したのだ。政党政治の上ではありえないことだった。橋本派16人、亀井派12人、堀内派3人、森派、山崎派、河本派が各1人、無派閥3人だった。

橋本派と亀井派はもともと小泉手法には反対だった勢力だが、お膝もとの森派から城内実氏と小泉さんの朋友の山崎派から自見庄三郎氏が造反したことは大変なインパクトだった。

城内さんは刺客の片山さつきさんに破れた。強いと言われた自見さんには亀井派から吊り上げた西川京子氏に戦わせ負けさせた。

これら自民党執行部の執拗な攻撃は、とても郵政民営化法案の是非を問うものとは思えない。郵政民営化は小泉さんそのものだったことからすれば、これは、自民党内のクーデターに対する断固たる処置だったと解釈する方がしっくりする。

急ぎすぎた首相候補

野田聖子は、古賀誠や引退した野中広務の応援があった。その中で首相候補としてもてはやされていた。野田さん自身も相当それを意識していたのではないかと思われる行動が、すでに6月からあった。

郵政法案が衆院郵政民営化特別委員会で審議されているときに、野田さんは小泉さんに噛み付いた。

「首相が(日本郵政)公社が駄目だという信念なら、なぜ首相の時に公社化法を通したのか」(読売新聞)

「今、やらねばならないという異常な信念はわかるが、国民にとって(民営化の)目的が見えてこない」(産経新聞)

「公社を民営化して、どうなるかまったく理想が見えてこない。そういう中でこれを進めることは非常に戸惑いとためらいがある」(読売新聞)

これらの質問や意見は野党以上の攻勢だった。

造反議員の中には他にも首相候補がいる。亀井派の平沼赳夫氏だ。政治資金の吸収力もずば抜け、小泉さんより二つ年上だという事からすれば、今回が最後の山だと思ったのかもしれない。

また、造反議員の中には、長老である橋本派の綿貫民輔、亀井派の亀井静香、堀内派の堀内光雄、古賀誠、山崎派の野田毅がいて、ポスト小泉が立ち上がれば大集合する実力者がそろっていた。

これは、まさにクーデター。野田聖子は恐らくクーデター後の首相として誰かに約束されていたに違いない。

「法案反対という自らの政治的主張は完敗したことを認める」との弁明は、郵政法案に対するものではなく、クーデターの敗北を宣言したものだったのだろう。

解散前の自民停滞ムードは、世論の後押しは造反議員に向けられると思わすには十分だった。野田聖子はそれに担がれ、自らも乗った――彼女が胸に秘めたものは、郵政民営化法案阻止ではなく、小泉さんが首相になったときから対立候補だったはずの自分が、いよいよ花開く思いだったのではないか。敗北宣言は、その思いに対して行なわれたものだと言える。

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参考資料:

野田氏「完敗」 郵政に賛成へ [2005年10月10日 産経新聞東京朝刊]

16年政治資金収支報告 ポスト小泉 「厚労族」安倍氏トップ [2005年09月30日 産経新聞東京朝刊]

自民岐阜県連、幹事長ら4役員辞任 衆院選の混乱引責 古屋会長は当分続投 [2005年9月27日 読売新聞中部夕刊]

細江・岐阜市長の握手拒否問題 苦情メールなど1315件=岐阜[2005年9月15日 読売新聞中部朝刊]

第44回衆院選 自民圧勝296議席 与党、3分の2を超す327 [2005年9月12日 読売新聞東京朝刊]

衆院選 自民独り舞台 ぼう然、民主奈落 [2005年9月12日 読売新聞西部朝刊]

第44回衆院選 小選挙区選の当選者横顔=東海地区 [2005年9月12日 読売新聞東京朝刊]

第44回衆院選 開票結果=東海ブロック [2005年9月12日 読売新聞東京朝刊]

【混沌05総選挙】改革の「主演」は誰 [2005年09月11日 産経新聞東京朝刊]

【政権半壊】(下)大量造反…求心力低下 うごめき出した「小泉後」 [2005年07月10日 産経新聞東京朝刊]

【政権半壊】(上)派閥システム機能せず 噴き出た思想的対立 [2005年07月07日 産経新聞東京朝刊]

郵政法案衆院通過 反対派の大半が旧橋本、亀井派 [2005年07月06日 産経新聞東京朝刊]

郵政法案衆院通過 わずか5票差 造反51人、自民“分裂” [2005年07月06日 産経新聞東京朝刊]

郵政法案 造反議員「惜しい」「よく頑張った」 「次でノックアウト」 [2005年07月06日 産経新聞東京朝刊]

郵政法案 首相・野田聖子氏 がっぷり 元郵政相対決 [2005年06月04日 産経新聞東京朝刊]

小泉首相VS野田聖子氏 郵政特別委で本格論戦 [2005年6月3日 読売新聞東京夕刊]

【保守新時代 自民党50年】第二部 変わる権力構造(5)ポスト小泉 [2005年04月12日 産経新聞東京朝刊]

【政治 縦断横断】野田聖子議員の理想 “鉄の女”を目指すなら… [2004年10月19日 産経新聞東京朝刊]

ポスト小泉、ソロ〜リと…始動 「士志の会」4人組 [2004年02月27日 東京朝刊]

【天辺の月】小泉事情(2)細心 戦意内に秘め世論“瀬踏み” [2001年08月31日 産経新聞東京朝刊]

自民総裁選 出馬改めて否定 野中氏真意は?党内に波紋も [2001年03月20日 産経新聞東京朝刊]

大荒れの自民全国幹事長会議 地方の怒り、一気に頂点 「反省してるのか」 [2001年03月13日 産経新聞東京朝刊]

わかりにくい「森降ろし」劇 国民の視点欠く、苦肉の政治決着(解説) [2001年3月13日 読売新聞東京朝刊]

公明の“三下り半”政局緊迫 ポスト森“胎動” 本命・小泉氏、対抗・野中氏 [2001年02月17日 産経新聞東京朝刊]

参考サイト:

野田聖子議員が支部長を務める自民党支部が党本部の求めを受け解散へ

野田聖子議員が10月11日に行われる郵政法案採決で賛成票を投じる意向を示す

野田聖子氏、党の除名検討に「うわさでは答えられぬ」

野田聖子氏「完敗を認める」 郵政法案に賛成を表明

野田聖子氏 “刺客”破るも厳しい戦い続く

野田聖子氏 首相に清き一票

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