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岸田 徹 【岸コラ】 |
前原誠司さんが民主党の代表に選ばれた。前原さんは【サカスト】でも好まれる候補者のうちの一人だった。鳩山さんや小沢さんに裏で調整されて選ばれるよりは、ちゃんと選挙で争ったのは立派だった。僅差とはいえ、菅さんを破っての当選は民主党が次世代の政党になろうとしている表明になる。話し合いで調整されて選ばれてしまうと、調整した鳩山さんや小沢さんの院政が付きまとう二重権力構造になってしまう。
前原さんの衆議院議員初当選は1993年で、自民党の安倍幹事長代理と同じ。歳は安倍さんの方が8つ上だが、議員としては同期。民主党が小泉さんの後をにらんで代表を決めたことが分る。国会での小泉さんは菅さんの追及にいつもたじたじだ。菅さんと小泉さんが戦えば、小泉劇場の穴が見え、軍配は菅さんに上がる。ところが、安倍さんが菅さんにやり込められたら、国民の多くは安倍さんに同情してしまう。安倍さんの相手は前原さんの方が有利と民主党の議員たちは思ったに違いない。与党が四分の三を取った今、小泉さんをいくら菅さんがやり込めても、結局は数で負けてしまう。民主党はポスト小泉をにらんで新代表を選んだ。
引き続き民主党は、「政権交代でしか日本は変わらない!」とやる気満々だ。しかし、前原民主党では、政権交代を託す気にはなれない。政権が変わっても自民党政府とどこが違うのかがよく分からないからだ。
前原さんは、ご自身のホームページで「前原誠司の基本姿勢」というのを表明している。かいつまんで説明すれば次のような表明だ。
自分の使命は民主党の再生で、民主党の再生は民主主義を生き返らせるために行なう。民主主義は政策競争で政権交代することによって成熟するので、民主党は闘う政党になって政権を交代する。政権交代をすれば、国民は誇りと自信を取り戻し、国民一人ひとりの多様な幸せを実現できる。
そのために、族政治、派閥均衡、既得権益、官僚的機構主義を打破する。これらは自民党の政治手法だったが、昨今は民主党にも労働組合や各種業界との関係で既得権擁護を主張する動きがあるが、これは根絶する。内部で党内融和を第一に考えるやり方も排除する。
現地・現場主義を徹底して、国民一人ひとりの意見を聞く。官僚に政策をまる投げする小泉型政治ではなく、民間の専門家といっしょに政策を作り上げ、官僚を使いこなす政治をする。国民一人ひとりの意見を直接聞くためにインターネットをフル活用するする。
税金の無駄遣いを徹底的にチェックして行財政改革を徹底し、重要法案には必ず対案を提示する。民主党の議員は統一テーマの下に論戦を挑む闘う集団になり、その成果は必ず反映される成果主義の人事を行なう。
――というもの。これは、突き詰めれば「民主党をぶっ壊す」と言っているようなもの。小泉さんは「自民党をぶっ壊す」と言ったが、その目的は国民のためだ。でも、前原さんの民主党は民主党のためにぶっ壊すだけで、国民の利益には直接関係ない。
目的は違うものの前原さんの言っていることは小泉さんの言っていることとほぼ同じ。小泉さんはエリート志向だから「現場主義」は言わないが、民意の反映や既得権益の解消、徹底した行財政改革と徹底した議論は常に言っている。
どうも、民主党は目が政治手法ばかりに向いていて、国民の利益に向いていない。
前原さんが唯一国民に向って発している言葉は、「国民一人ひとりの多様な幸せを実現できる社会」というものだ。しかし、国民一人ひとりの幸せを実現できる政治はもともと存在しない。第一、民主党が闘う政党として自民党を破れば、自民党関係者の日本国民は幸せを失うことになるのは当り前。それが永遠に不幸になるとは限らないので許されるだけのことだ。
小泉自民党は郵政民営化を旗印に民間にできることは民間にと小さな政府を目指している。政府が小さくなると大きくなるのはどこかと言えば民間企業だ。今の小泉自民党には、バックに経済財政諮問会議の民間議員である、牛尾ウシオ電機会長、奥田トヨタ自動車会長、本間大阪大大学院教授、吉川東大大学院教授の4人がついている。
政府が企業の自由競争にいちいち口出しをしないというのが小さな政府の原則だ。この原則で、大企業のウシオ電機やトヨタ自動車は有利に企業活動が展開できる。民間企業が競ってよい製品を作り出し、価格競争で安い品物が流通すれば、消費が拡大し、雇用機会も増え、景気がよくなる。景気がよくなれば、税収も増える。税収が増えれば、国や自治体の借金もそれだけ減る。
小泉さんの郵政民営化は、こうした小さな政府の実現で日本人みんなが幸せになるようなバラ色の青写真を掲げた。
しかし、本当にそうなるだろうか。民間の自由競争とは、本来、資本家のために行なわれるものだ。民間企業が競って利益を上げるのは株主のために行なわれる。そこには利益至上主義があって、必ずしも国家のための活動が行なわれるわけではない。
人間は高いところに土を盛るので、競争でトヨタが勝てば、トヨタの株を買う。トヨタが勝つと三菱が危ないから三菱の株を買ってやろうという投資行動は取らないものだ。すると、三菱は負ける運命。三菱が負ければ三菱自動車に勤めていた人たちは職を失い、三菱自動車関連の企業や金融機関は打撃を被る。
これは、自動車業界だけではなく、小売業も流通業も同じ原則だ。そればかりか、企業の自由競争が激しくなれば、一番儲かる兵器産業も隆盛になる。今だって、もし小泉自民党が三菱重工業や石川島播磨重工に有利な政策をとろうと思えば、憲法第9条を修正して自衛隊を軍隊として認め、国防のために海外派兵を許すことだってできる。こうなれば、日本の軍需産業はかつてのゼネコン以上に儲かる産業となり、兵器製造企業への投資はどんどん膨れ上がる。軍需景気が訪れるが、兵器の製造は、兵器を利用して国家を建設することはできないので、いずれ破局が待っている。今のアメリカがその典型だ。
こうなると、我々は小さな政府ばかりを望んでいるとは限らない。
自由主義経済とはいえ、軍需産業への投資を規制したりするのは、今の日本人の感覚からすれば当り前のことだ。また、勝ち組企業から税金を取ることも必要だが、負け組企業の失業者への再雇用の斡旋やそれまでの失業保険の充実、負け組企業で倒産した会社の従業員のために企業年金を守ることなども求められる政策だ。これらは、小さな政府ではできないことだ。
大きな政府は役人が多いと想像されがちだが必ずしもそうではない。政府が規制をしたり、弱いものに援助をしたりするのが大きな政府の概念で、小さな政府はその逆だ。その結果役人の数に影響することはあるかもしれないが、役人が多いからと言って政府が大きいというわけではない。
政治もしょせんは人間がやるもの。この政治が一番いいというものはない。二大政党制は、小さな政府が行き過ぎたら大きな政府を求め、大きな政府が行き過ぎたら小さな政府を求めるという国民の選択のために存在してはじめて意味がある。
今の自民党は小さな政府を表明しているのだから、民主党はそれより大きな政府を掲げてもらわないと選択ができない。小泉さんのやり方がいいか、前原さんのやり方がいいかが二大政党制の選択基準ではない。二人で小さな政府を目指されても困るし、二人で憲法第9条を修正されたのではもっと困る。
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