民意を問うって?

岸田 徹 【岸コラ】
2005年8月26日(金)

「いわば、今回の解散は「郵政解散」です。郵政民営化に賛成してくれるのか、反対なのか、これをはっきりと国民の皆さんに問いたいと思います」

小泉さんは、衆議院を解散した理由をこう述べた。日本で民意を問う方法は憲法改正時の国民投票か衆議院解散の選挙しかないので、郵政民営化の民意を問うとすれば、衆議院を解散することは順当だ。ところが、これが随分おかしなパズルを生み出してしまう。

参議院がある訳

郵政民営化法案は衆議院で可決されて、参議院で否決された。参議院で否決されたのだから参議院を解散すればいいじゃないかと思うが、参議院は解散できない仕組みになっている。

なぜ、参議院は解散できないのか。理由は、参議院はムードで流されるような議決をしないためだ。衆議院と参議院には役割の違いがある。どこが違うかというと、議席数が違う。衆議院は480名いるが、参議院は242名だ。衆議院は参議院より2倍の議席があるのだ。つまり、衆議院は参議院の2倍丁寧に民意を反映するようになっている。100人の団体で役員を選出した場合、5人を選出するより10人選出した方が意見を多く拾えるのとまったく同じだ。

もうひとつ、衆議院と参議院の違いには、任期の差がある。衆議院は4年、参議院は6年だ。つまり、衆議院はその時々の民意をより反映しやすくなっている。参議院は6年間変わらない上に、改選のときも半分ずつ代わる仕組だ。参議院は、選挙で選ばれた人が登院しても、その中の半分の人は3年前に選ばれた人で、選挙の熱い戦いの末に選ばれた人同士が熱く語る雰囲気にはならないようになっている。

衆議院と参議院のこのような仕組の違いは、衆議院をなるべく民意に沿う国会にしようとする現われだが、民意とはいえ実際には選挙の結果なので、人気投票のようなムードに流された側面がないわけじゃない。そんなムードで法案を議決しないように参議院が歯止めをかけている。そんな役割だから、参議院には解散がない。端的に言えば、参議院は民意だけですべてを決めてしまったときに生ずる大きなリスクを回避するためにあるのだ。

役に立たない衆議院解散

小泉さんは民意を確かめるために衆議院を解散した。その結果、もし小泉自民党が勝った場合、郵政民営化法案は当然のことながら衆議院を賛成多数で通過する。しかし、参議院は民意だけですべてを決めることを抑制するためにあるのだから、その使命を全うするなら、再び否決するはずだ。これが、困ったパズルなのだ。

小泉さんの手法に反対する議員の中には、自民党のルールを無視したやり方(綿貫氏)との批判もあるが、議会制民主主義を否定するものだという声が社民党を中心に多いのは上記の理由からだ。これが日本のルールだ。もちろん、「改革」とうたっているからには、ルールを打ち破る事だってあるはずだし、日本の行財政改革はまさに今までのルールでは解決できない点が多い。

しかし、両議院制度は日本のルールの中でもルール中のルールだ。一方、郵政民営化は改革中の改革かと言えばそんなことはない。もっと、議論して民営化方策を検討すべき課題だ。両議院制度を無視してまでも民意を問わなくてはならない課題があるとすれば、税制改革と赤字国債問題と年金問題だ。これらの課題は多くの国民に直接影響する。小泉さんがこれらの問題に正面から取り組んで国民に覚悟を求める解散をするのなら許せるが、どう考えても郵政民営化で莫大な時間と金をかけて国民に直接判断を求めるのは間違いだ。

民主党はもっとしっかり

衆議院では解散風を吹かせたから、郵政民営化法案が通った。衆議院議員にとってみれば2003年の11月に選挙をしたばかり。2年たっていないのにまた大変な苦労をしなくてはならないかと思えば、賛成票も投じたくなる。その程度の法案だ。

しかし、解散できない参議院では、そんなことは関係ないから法案の中身がもまれていないので否決になった。本来、あの法案を国民がしっかり見れば、参議院の結果と同じになるはずだ。しかし、あんな6つもある法案を理解して国民が判断を加える余裕はない。国民の代わりにしっかり調べて決議してもらうのが代議員制だ。

「郵政民営化」に賛成か反対かと問われれば、「賛成」に決まっている。前回の参議院選挙(2004年7月)と衆議院選挙(2003年11月)では、改革に賛成の票が民主党に集まったのだから、民意は「改革」に大賛成なのだ。この票を小泉さんは「郵政事業を民営化できないでどんな大改革ができるというんでしょうか」と言って取り込もうとしている。

そうじゃないのだ。郵政民営化はじっくり参議院を通過するように議論を尽くしてもらうとして、その前に年金問題、財政問題、イラクの自衛隊派遣問題、拉致問題を早く解決してくれというのが民意なのだと思うが。民主党もそこをついてくれないと、この民意は「刺客」に飛んでしまう。

この記事の読者数:


参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2005:「参議院」「衆議院」

衆院解散 道内も一気に臨戦態勢 自民、「造反組」に苦慮=北海道 [2005年8月9日 読売新聞東京朝刊]

衆院解散 慌ただしく駆ける陣営 戸惑い、興奮の熱い一日=神奈川 [2005年8月9日 読売新聞東京朝刊]

郵政民営化法案 「党のルール無視」 自民、小泉首相に反発 [2005年4月2日 読売新聞東京朝刊]

【小泉内閣メールマガジン 第200号】郵政解散(2005/08/11-18)

参考サイト:

NIKKEI NET 2004年参議院選挙特集

NIKKEI NET 2003年衆議院選挙特集

国会外景


Copyright (C) Toru Kishida 2005 All Rights Reserved.