郵政民営化法案、本当に賛成していいの?

岸田 徹 【岸コラ】
2005年8月17日(水)

政権公約「小泉改革宣言2003」郵政民営化法案が参議院で否決されたとき、日本郵政公社の生田総裁は記者団に対して「ものすごく(危機感が)ある」と語った。

一方、郵政公社の労働組合と全国特定郵便局長会はともに記者会見をして否決を歓迎した。(読売新聞)

この両者の反応は、郵政民営化の賛成反対のそれぞれの理由を象徴していると同時に問題のいやらしさも露呈している。

小泉さんの「正当性」

小泉さんは、衆議院で可決された郵政民営化法案が参議院で否決されると、衆議院を解散し「本当に国民の皆さんがこの郵政民営化は必要ないと思っているのか、直接聞いてみなければならない」(小泉首相)と民意を確かめる決意をした。

この点での小泉さんの行動は筋が通っている。自民党が前回の参議院選挙で明らかにしたマニュフェスト「小泉改革宣言2003」には、小泉改革の5つの成果を掲げ、その最初に「官から民へ」とうたい「郵政事業を2007年4月に民営化」するとしっかり書いているのだ。これは自民党の選挙公約だ。決して小泉さん一人の決意表明ではない。

自民党議員が郵政民営化そのものに反対するのなら、自民党がこのマニュフェストを出すときにしっかり反対しなくてはならなかったはず。抗議するなり離党するなりすべきだった。

国民は公約を聞いて自民党議員を選んだはずなので、選挙が終わってからその公約に異議を唱える自民党議員がいること自体不思議なことだ。

小泉さんは内閣総理大臣であると同時に、自民党の総裁だ。自民党の公約に異議を唱え続ける人と徒党を組むことはできない。民意を確かめる手段は選挙と国民投票がある。日本では国民投票で民意を確かめるのは憲法改正のときに限られる。憲法改正以外で首相が民意を確かめる手段は、自分が解散できる衆議院の議員選挙しかない。

衆議院を解散し、自民党の公約に反し反対票を投じた議員を自民党の公認から外し、賛成の意見を持つ候補者を公認し、有権者に賛成か反対かの投票をしてもらい民意を確かめる。これは当り前の方法だ。

本当は何に「反対」し「賛成」したか

筋論ではそうなのだが、どうも基本的に分らないことがある。郵政は民営化されることが決まっているのに、土壇場で議員たちはいったい何に反対し、何に賛成したのかだ。

衆議院で法案が可決されたとき、反対票を投じた自民党議員に読売新聞が聞いた理由は、「国民の利便性を損なう」(野田聖子)、「全国一律に同一サービスが受けられる、世界がうらやむような組織を壊す理由がない」(古屋圭司)、「民営化後、全国ネットを維持できるのか。外資の支配を受ける恐れはないのか」(藤井孝男)、「民営化そのものが、国民に十分理解されていない状態で、なぜ推し進めるのか」(青山丘)というものだった。

一方賛成した議員は、「民営化で、これまで以上に自由度が広がる。郵便局の皆さんを見捨てるわけではなく、応援していこうという趣旨だ」(鈴木淳司)という理由だ。(7月6日付)

こうみると、反対意見の議員は、郵政公社のままでいいじゃないかという意見。一方賛成意見の議員は、郵政公社でいる間に民間に追いつかないと大変なことになるという意見だ。どちらも「郵政公社」を応援しているのだ。これが、民営化を輪をかけて分りにくくしている。

目的とかけ離れる法案の中身

そもそも郵政を民営化する目的は、小泉さんが最初言っていた「民間にできることは民間に」という発想と日本の財政改革のために財政投融資の資金源である郵便貯金を見直し、さらには官業で使っている莫大な郵貯・簡保の資金を民間に解放するということだった。

そこで、郵政を民営化しようというのが郵政民営化法案だ。どうやってやるのか。今ある郵政公社を4つの会社に分ける。「日本郵政株式会社」、「郵便貯金・簡易生命保険管理機構」、「郵便事業株式会社」、「郵便局株式会社」の4つだ。

「郵便事業株式会社」は今郵便局がやっている郵便事業を引き続き行なう会社だ。ヤマト運輸や佐川急便などが競合相手になる。

「郵便局株式会社」は今の郵便局を経営する会社で、今の店舗網を利用して銀行でも保険会社でも金融サービスを行なう会社に入ってもらっていわば「金融コンビニ」を作ろうとする会社だ。

「日本郵政株式会社」はそんな二つの会社の持ち株会社で、その株の持分をどんどん民間に売っていくことによって郵政事業を民営化しようとするもの。

ここで残るのが郵便貯金のお金と簡保のお金だ。今まで郵便局でやっていた郵便貯金と簡易保険は公社がなくなる時点で新規の募集は止める。それまで集めた郵貯と簡保のお金は「郵便貯金・簡易生命保険管理機構」が預り国に運用を依頼する。つまり国債を買うということだ。貯金や保険は全額国が保証する。郵貯の不良債権は全額国民の税金で処理をするという道筋だ。

じゃ、新規の郵貯と簡保はどうするのか。それは、新規に「郵便貯金銀行」と「郵便保険会社」をつくって行わせようというのだ。

法案の中身はあまり議論されていないから、意外に思う方がいると思うが、民営化の方向は、実に意外な方向なのだ。

賛成しても反対しても民業を圧迫する郵政事業

郵政事業が民営化され、それでも郵便局が今と同じ事業をやりたいのなら、ヤマトか佐川の代理店になり、さらに、みずほ銀行の代理店かその地方の有力銀行の代理店になり、さらに、日本生命かイイナイイナの保険会社の代理店になるとかすればいいのだ。これが民業を圧迫しない本来の姿だ。

それが、郵政民営化法案では、4つの会社を作って事業を継承するばかりか、郵便事業は国際物流に参入する手立てを構築して儲かる仕組みに変身させ、財投に行ってしまった腐った資金は全部国が買い上げ、残った店舗網は潰れることがないように基金を設けるという手厚い保護法案なのだ。

もう銀行はこれ以上いらないと、民間の銀行はどんどん合併している中で、新しい銀行を作るっていうのはいったいどういう神経なのか。また、国際物流には莫大な資金が必要なために、儲かることは分っていてもリスクが大きく容易に参入できないヤマトや佐川を尻目に国家のお金で国際物流に参入させてあげるっていうのはどういうことなのか。

どちらも、民業圧迫になることだ。それを国家予算を使って推し進めようとするのだからいったい政府はどちらの立場に立って民営化を推し進めようとしているのか、大変な疑念がわいてしまう。

困った選挙

冒頭に書いた日本郵政公社の生田総裁が郵政法案否決で危機感を表明したのは上記の理由からだ。公社の時に鎧を強化し競争力が増せば、新会社のポストは大変魅力的で、それに群がっている人たちがすでにいるに違いない。

じゃ、反対した労組と全国特定郵便局長会のホット一息は何かと言えば、国家公務員の地位だ。公社の職員は国家公務員だが民営化後は公務員の地位はない。民主党が公社の労組の後押しがあるので「郵政公社をもう少し見守るべきだ」と主張するのはそのためだ。

公社後の思惑が絡んだ郵政法案に、小泉さんは単純に民営化は「賛成」か「反対」かを国民に問うている。賛成すればあたかも官の民業圧迫がなくなり、日本の財政再建に大きく貢献するかのようなポーズを取るのだから本当に困ったものだ。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2005:「国民投票」

民営化関連法案否決 生田郵政公社総裁「ものすごく危機感ある」 [2005年8月9日読売新聞東京朝刊]

郵政民営化法案、衆院可決 「解散なくて良かった」本音漏らす議員も [2005年7月6日読売新聞中部朝刊]

小泉内閣メールマガジン 第200号

参考サイト:

郵政民営化法案

郵政民営化関連法律案の概要 (官邸)

郵政民営化関連法律案の概要(修正後) (官邸)

自民党参議院公約「小泉改革宣言2003」

[新潟の経済50人] 田中 弘邦さん 元全国特定郵便局長会会長 [2005年4月14日朝日新聞新潟]

2005年総選挙 郵政解散は自民党・郵政マニフェストのまずさが招いた(1) (フリージャーナリスト:神吉信之)

郵政民営化の基本方針 (官邸)

「日本郵政公社法」等の成立について (全国銀行協会)


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