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岸田 徹 【岸コラ】 |
「クールビズに反対しているわけではないがノーネクタイばかりが目立つと、中小企業が多いネクタイ業界ではつぶれる会社が出てくる」−日本ネクタイ組合連合会の会長抗議談話(毎日新聞)。
誰に抗議したかというと、今回クールビズを推進している小池百合子環境相にだ。それで、「ノーネクタイ、ノー上着」というキャッチフレーズの使用を中止するよう小泉内閣の全閣僚に要望書を郵送したという(同)。
この「潰れる会社が出てくる」のひとことに日本人は弱い。共産党員じゃなくても弱者はどうでもいいのかとすぐ声を張り上げる。すると、いつの間にか威勢のいい掛け声がなくなり、この手の運動はしぼんでしまう。
ネクタイ業界がこうやって抗議の声をすぐに上げるのは慣れているからだとも言える。小泉首相の前は羽田首相、その前は大平首相とノーネクタイ運動ののろしは随分前から上がっていた。
ノーネクタイ運動ばかりではなく、中国製のネクタイがどんどん日本に入ってきたときもそうだった。このときは、ピエールカルダンのネクタイを生産していた業界大手の朝倉商事が倒産(2001年4月)。そんな時にやはり中国からの輸入が急増したネギや生シイタケなどの関税が引上げられ緊急輸入制限が行なわれた。これだとばかりにネクタイ業界も悲鳴とともに手を上げた(2001年5月)。
この時はネクタイの輸入制限はされなかったが、業界を守るための行動は手早いのだ。
「潰れる会社が出てくる」と脅されて、政府は随分保護をする。例えば、ゼネコン、銀行、デパート、スーパー。潰れたら失業者が増えると脅されるのだ。しかし、これは本当におかしい。
みなバブル崩壊のせいにするが、実は違う。ゼネコンは日本全体が建設ラッシュの時代を終えたのだから多くは必要ないのだ。銀行も間接金融の時代は過ぎたのだから多くは必要ないのだ。デパートもスーパーもひとつの場所で均一的な品物を手に入れなければいけない時代は過ぎて多様性を求める時代になったのだから多くは必要ないのだ。
市場がいらないものを残しておくためには莫大な金がかかる。これは、税金だ。大量の失業者が出るからと大手企業を残すために税金が使われる。その税金は潰れそうな大手企業が納めたものではない。潰れてしまった中小零細企業やそこで働く労働者たちが払った税金が入っているのだ。
構造改革が進まない最大の原因はここにある。市場が変わっているのにそれに対応した雇用システムが確立されていないのだ。
「潰れる会社が出てくる」のなら潰すべきだ。じゃ、そこで働く人たちはどうするのかと迫られるが、その人たちは違う職場で働いた方が本来給料が上がるのだ。
例えば、ネクタイ業界を考えれば、クールビズでネクタイの売上げが2〜3割落ちるのではないかと業界団体は予測している。ネクタイ市場は推定2,000億円。売上減は話半分に聞いても、100億円は下らない。
ところが、クールビズで官庁の職員25万人がノーネクタイに合ったシャツなどを買い揃えると100億円が動くという。25万人で100億円というのは一人4万円だ。話半分としても50億円がワイシャツ業界での売り上げ増になる。これが、全国1,500万人のサラリーマンに影響すれば、3千億円だ。話半分でも1,500億円の新たな売上が生まれることになる。ネクタイ業界の打撃分の100億円は十分吸収できる。
要するに、ネクタイで100億円損してもワイシャツで1,500億円儲けられるのだったら、もともとネクタイの損でワイシャツの儲けが出てくるのだから、ネクタイの損は損じゃなくなる。問題は、ネクタイとワイシャツの会社が違うから、そこで働いている人たちの生活をどうしてくれるのだという脅しにつながってしまう。社会全体の利益を考えれば、ノーネクタイの方が景気がよくなるという事だ。
じゃ、どうすればいいか。話は簡単だ。ネクタイ業界で働いている人がワイシャツ業界に移ればいいだけのこと。ワイシャツ業界だって、急に1,500億円の儲け話が転がり込んでくるのだから火の車だ。人手がほしい。
こういう人材の流動化、あるいはネクタイ業者がワイシャツ業者に早変りするような経営の流動化がなされてないから儲け話を逸してしまう問題が起こるのだ。人材派遣会社を多く作ったり、公的資金でもっと簡単に業種をかえる融資体制も必要だが、一番の問題はマインドだ。
いつまでもひとつの会社に「奉公」することが善しと思っていたり、何年も同業を続けることが信用につながっているという錯覚をまず取り除かなくては世の中は動かない。
個人は会社に就職するのではなく、自分の技量や経験を通じて自分を生かす場所の追求をする。法人は業歴に箔をつけるのではなく、経営者の技量がいかに経営をまともにしているのかをアピールすべきだ。
これに加え、官庁の立場を180度変える必要がある。今の官庁は、業界のために働く官庁だから潰れる会社を助けようとするのだ。例えば、中国から入ってくる安い野菜に関税をかけて輸入制限をしたら、困るのは消費者だ。高い日本の生産野菜か関税がかけられた高い中国野菜を買わされるからだ。もし、農水省が消費者のために活動するとなれば、関税なんかかけられないはずなのだ。
業界を守るという事は、消費者の犠牲によってはじめて成り立つもの。それでもいいのかを判断するのが政治なのだが、その政治が日和見主義で、結局業界の監督官庁が自分たちに仕事をくれる業界を守ってしまうのだ。こうなると、体制が変わらないから改革なんてできないのだ。声の出ない労働者だけが言われるままに税金を払い、それが改革を妨げる賛助金になっている。
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参考資料:
定着する?クールビズ 省庁役人「少し恥ずかしい」「ポケットにネクタイ」 [2005年6月1日読売新聞東京夕刊]
【観潮台】国際価格での供給システムを [2001年05月11日 産経新聞東京夕刊]
朝倉商事が民事再生法申請 [2001年04月24日 産経新聞東京朝刊]
【談話室】どうなった? 省エネルック [1997年07月13日 産経新聞東京朝刊]
参考サイト:
クールビズ:ネクタイ業界、キャッチフレーズに「待った」 [2005年6月8日毎日新聞インターラクティブ]
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