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岸田 徹 【岸コラ】 |
ドレスアップした女優にタキシードの男優が赤いカーペットの前でリムジンから降りる。これがオスカー(アカデミー賞)の絵だ。ところが、ディカプリオはエコカーのプリウスで乗り付けた。プリウスはトヨタが世界ではじめて世に送ったハイブリッドカーだ。ディカプリオのほか数人がプリウスでオスカーの会場に姿を見せた。
ハイブリッドカーのhybirdとは、動植物では「雑種」、人間では「混血」、化学物理では合成物のことをいう。どんな雑種かというと、ガソリンエンジンと電気モーターの混血だ。自動車と電車の最大の違いは道路を走るかレールを走るかだが、駆動力の違いでは、自動車にはギアーがあり、電車にはないことだ。なんで電車にないかというと、電気のモーターは低速で力があるからだ。ところが、高速回転では力が弱まってしまう。一方のガソリンエンジンは、低速回転では力がないが、高速回転が得意。
そこで、プリウスは、走りはじめを電気モーターで動かし、高速になったところでガソリンエンジンで動かすようにした。電気モーターを動かす蓄電池にはガソリンエンジンで発電機を動かして充電する他、車が止まろうとするときに、その惰力で発電機を動かして蓄電する。その時には、発電機を動かす抵抗力をブレーキにしている。電気自動車のような充電時間がなくてすむ。合理性と利便性を追求した車だ。
無駄を省いた仕組みで、プリウスは10・15モード測定でガソリン1リットルあたり35.5キロ走る。プリウスと同じ1500ccエンジンで電気モーターを積んでいない(ハイブリッドではない)車のカローラは低燃費車で有名だが、プリウスに比べたら同じ測定で18キロしか走らない。プリウスはカローラの約倍走る超低燃費車。
日本人は流行に敏感だが、アメリカ人もブームに弱いところがある。ベトナム戦争が終わったときから、禁煙ブームが蔓延し、タバコ会社は善良市民の敵とみなされ、喫煙者は非喫煙者の何倍の確率で癌で死ぬなどという発表が毎日のように行なわれた。これが一服すると、今度は健康ブーム。オーガニック・フードがもてはやされ、ヨガがはやった。肥満は人類の敵とばかりに、太った人は管理職になれない風潮が生まれ、日本食ブームも巻き起こった。
次がエコ・ブームだ。特にここ2〜3年は、エコ・カーが注目されている。アメリカ政府は京都議定書にも調印していないのに、上流階級の市民はCO2削減に相当な関心がある。ニューヨークに住んでいる知識層は実際に車を手放し、電車や自転車で通勤している人もいる。
ディカプリオは、そんなエコ・ブームを演出する環境派の俳優とされている。ホンダもハイブリッドカーを売り出しているが、売れ方はトヨタのプリウスが数段上で、エコ・カーといえばプリウス。1998年に215万円で売り出されたが、原価は500万円かかったと言われた。それでもトヨタは、20世紀中にエコ・カーを売り出すことで環境を重視する企業姿勢を打ち出そうとした。
この姿勢が買われたのか、トヨタはどんどん力を伸ばし、世界一の自動車メーカーの地位が見えてきた。先週、販売不振が続く世界トップと二位のGMとフォードの長期債格付けが下げられ、「投機的水準」になった。長期の社債は、元金が返らない可能性があるという烙印を押された形だ。これで、明らかに設備投資のコストが跳ね上がる。資金の調達コストが上がれば、その分車は高くなり、さらに売れないという悪循環が生れる。
もっとも、GMは2兆円の無コスト資金が手元にあるから当面資金調達に困ることはないと主張する。だが、トヨタは年間利益を1兆円上げる会社だ。すでに勝負は決まった感じだ。
トヨタの強さの秘密は「かんばん方式」だといわれている。この方式は、「スーパーマーケット方式」と当初言われていたようで、車を生産するに当たり、必要な部品を必要なだけ調達し、なくなればなくなっただけ調達する、後工程が前工程に取りに行く方式だ。これで無駄な在庫がなくなりその分コストが下がる。当り前のように見えるかもしれないが、これが難しい。なぜなら、必要なものだけを常に必要なだけ補充する際には、いちいち見積を取るわけにはいかず、部品メーカーの競争で仕入れる道を閉ざすことになるからだ。これは、価格の面でも品質の面でもリスクがある。
この「かんばん方式」を成功させるには、絶対的に信頼できる一心同体の部品メーカーが必要になってくる。これが「ケイレツ」だ。
日産を再生したゴーンさんがいの一番に改革に乗り出したのが「ケイレツ」の排除だった。安いところからいいものを競争させてその時々に購入するやり方が日産を再生したひとつの原動力だったわけだ。トヨタは、日産の成功にも動ぜず、ケイレツ各社を守った。「ケイレツ」は、日本的商慣習の排他的一面として嫌われた。さらに、トヨタは終身雇用を貫き、伝統的な日本の経営方法を温存したのだった。これらの企業姿勢はかつては排他的とみなされ、トヨタの社債ランクを下げた要因だったのだ。
会社の成功というのは方式に左右されるのではなく、方式をいかに理解し経営者が責任を持って貫くかにかかっていると言える。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2005:「ハイブリッドカー」
会社とは何か「トヨタ流30年の「騎士道」 [2005年5月13日 日経新聞東京朝刊]
参考サイト:
山崎淑子のニューヨーク「オスカー会場にはリムジンよりプリウスで」
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