「拝啓」ではじまるビジネス文書

「拝啓」は日常生活ではほとんどお目にかからない言葉になった。しかし、ビジネスの世界ではこれが使えるのと使えないのとではぐんと差がつくからこれはマスターした方が得だ。

しかも、今ではパソコンのワープロソフトで拝啓に続く文が自動的に出てくる。だから、ツボさえ押さえれば誰だってカッコがいいビジネス文書が書けるのだ。

手紙の形式は、【岸コラ】の「ビジネス文書を自分のものにしよう」と同じだ。前略で始まるのが今度は拝啓で始まる訳だ。

じゃ、その「拝啓」とはどういう意味か。謹んで申し上げるという意味だ。自分がかしこまってこれから書くと最初に宣言する訳だ。手紙は表情が見えないから、読む方はどんな状態で相手が書いてきているのか気になる。それを今回はかしこまっていますよと表示してあげる。

前略との違いは、前略で始まる文は、かしこまっていられない状況だという意味だ。相手のために急いで知らせたいとか、状況を伝えられるほど落ち着けない悲しい状態だとか、そういう時に「前略」で始まる文を書く。ビジネスはたいがい急いでいるときが多いから前略で始まる文の方が圧倒的に多い。「前略」で始まっては失礼な文が「拝啓」で始まるということになる。どんな文かというと、あらためてお願いする依頼文、お祝いを述べる文がそれだ。

「拝啓」で始まったら、必ず「敬具」で文を締める。敬具の意味も謹んで申し上げるという意味だ。じゃ、なんで拝啓の最後は敬具なのか、これは、「こんにちは」と「さようなら」のようなもので理由はない。

「拝啓」の次は、一時空けて「時候のあいさつ」がくる。夏だから暑いとか冬だから寒いとかいうあいさつだ。当たり前の内容だが、ここではその当たり前が大切。お互いに感じていることを確認し合うことで人間関係が始まる。時候のあいさつだからといって、去年と暑さを比較したり、10年間の気象トレンドや地球温暖化への危惧など異論が出るような内容にしてはいけない。

その次には、一般の手紙では相手方の安否やこちらの状態などを知らせる「その後いかがお過ごしでしょうか」という文になるが、ビジネス文書では取引状態を感謝する表現が一般的だ。あるいは、略してもいい。

その次は、段落を変えて「さて、」と書いて本文が始まる。何のことを伝える手紙なのかを書く訳だ。

その次は、段落を変えて「つきましては、」と書いてお願い事や依頼事項を書く。

最後に、一般の手紙では相手の健康を祈る言葉が来るが、ビジネス文書では今後とも取引を継続する願いと会社の発展を祈る。

「敬具」を段落を変えて右端に書いて終わる。

要領を示す文がある場合は、段落を変えて「記」で始め、箇条書き文を書き「以上」で締める。

どんな文になるのか例文を見てみよう。

レターヘッド

平成16年8月8日

株式会社×○商事
総務部長 山田太郎様

いろは商店株式会社
営業部長 田中一郎

新サービス開始について

拝啓 残暑の候、貴社ますますご盛栄のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。

さて、かねてよりご案内申し上げておりました新サービスを来月開始する運びとなりました。長年ご愛顧を賜りました現サービスをベースに開発した新サービスは、貴社の情報一元管理に一層貢献するものと自負いたしております。

つきましては、下記の通り展示発表会を行いたいと存じ上げますので、部長はじめご関連部署の皆様方のご光臨を賜りますようご案内申し上げます。

どうか、今後ともお引き立て賜りますようお願い申し上げます。貴社のますますのご発展を心より祈念申し上げます。

敬具

  1. 日時: 8月26日(木)午前10時から午後6時まで
  2. 場所: 弊社6階大会議室
  3. 内容: 弊社新サービスの全容ご紹介

なお、同封いたしました葉書でご来社予定時間をお知らせいただければ、担当者を待機させますので、誠に恐縮ではございますが、8月23日までにご投函くださるようお願いいたします。

以上

ここで、注意したい事項だ。

  1. 「させていただく」という文はなるべく使わないように頑張ってみる。この例で言うと、「新サービスを来月から開始する運びとなりました」というのを、「新サービスを来月から開始させていただく運びとなりました」という表現だ。お客のお陰でというニュアンスが入る謙譲的な表現のつもりなのだが、ビジネスは主体と主体のぶつかり合いなので、「させていただく」主体が誰か分からない表現は無責任に取られてしまう。
  2. 時候のあいさつは、季節を表す言葉が入る。これをどんな季節でも通用する「時下」にする場合がある。「時下、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます」と使う。たまに「残暑の候、時下ますますご清祥のことと…」という文を見るが、不自然だ。「時下残暑の候」という使い方はあるが、一般的ではない。時下…を使うぐらいなら、前略ではじめた方がすっきりする。
  3. 時候のあいさつの後の、相手との取引に感謝を述べる言葉には、「日頃は大変お世話になっております」という「お世話」いただいていることを感謝するものもある。悪くはないのだが、ニュアンスの違いがあるのに注意。商人がお客に「毎度ありがとうございます」と礼を言うと、お客が商人に「お世話様」というのが基本だ。それを商人がお客に「毎度お世話になっております」というのは、返礼を先取りしたあいさつで、独占的な取引状態の感じがある。本来、商売人がお客に世話になってはいけない。「日頃よりお世話になりありがとうございます」はお客の方が書くあいさつだ。
  4. 「重ねて」が出てくる文にお目にかかることがあるが、ビジネス文としてはそぐわない。例えば、上記の例で、最後の「8月23日までにご投函くださるようお願いいたします」を「重ねてお願いいたします」にしがちだ。上の文で来社を依頼しているので、投函を二重にお願いするという思いがあるのだろうが、「重ねて」は同じものを願うときに使う。最後にもう一度ぜひ来てほしいというような場合だ。これはしつこい。
  5. 「乱筆乱文にて失礼いたします」で締めないとどうにも気が納まらない方もいらっしゃるが、早くその癖は捨てた方がいい。もともと文章の名士が最後にこのようなことを書いて謙遜するのがそのスタイルだ。我々は名士じゃない。失礼するにも値しない。特にビジネスでは、このような文は「カッコだけ気にしているヤツ」と軽く見られる。
  6. 拝啓で始まる文はかしこまった文なので「追伸」は付けない。
  7. 日付は「・」や「/」などで区切る表記はやめ年月日と書く。
  8. 相手の会社の株式会社を(株)とか有限会社を(有)として略さない。自分の会社名もかしこまった文では略さない。個人名もフルネームで書く。
  9. レターヘッドの便箋で書く。レターヘッドは手紙の頭なので、二枚目以降はレターヘッドのない用紙を使う。レターヘッドのない会社は作る。どうしても作りたくない場合は、差出人のところに住所と電話番号を記入する。
  10. 「当社」は「弊社」、相手の会社は「貴社」か「御社」と書く。さらに、「弊社」が文の最初に来るような文にしないよう工夫をする。自分のことを「弊職」とするのもあるが、なるべく一人称と二人称は出てこないように工夫して書く。
  11. 古来日本の手紙は、上下関係と男女の違いにうるさい。相手が上司や目上だと「拝啓」が「謹啓」で始まったりするのだが、最近では年配だが部下だとか女性の役職者も多くこれにこだわることがそぐわない。

ビジネス文書は、余計なことを書かずにしかも言いたいことは丁寧に書くのがポイント。よく、ビジネス文書は苦手だという人がいるが、よく聞いてみると文が書けないのではなく、相手との取引が上手くいっていない場合が多い。請求書を出したら請求金額が違うと指摘され、直して送ったら日付が違っていて、もう一度直して送ったら今度は切手を貼るのを忘れたなど、ミスが続く先は続く。こういう先にビジネス文書を簡潔に書けと言っても、最初に先日は大変失礼しましたと書きたくなってしまう。

文書そのものは上記のポイントを押さえれば簡単に書けるが、やはり最大のポイントは日頃から堅実な業務を行っているかどうかということだ。そういうのが、自然と文章に表れるから不思議だ。

2004年8月6日(金)

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