年金法案が見せた「日本の国会は官僚が占拠」の根拠

口をそろえて年金は重要だと言っている国会議員も、年金制度については無知で関心がない。それなのに年金関連法案は「重要法案だ」と言うのはどうしてなのか。官僚が重要だと言っているからだ。

法案が官僚によって牛耳られるのには二つの理由がある。ひとつは国会の仕組み、もうひとつは法案が成立するまでの仕組みだ。

法案は国会に提出され、衆議院と参議院の両方で可決されて法律になる。国会というと衆議院と参議院の両院を思い出すが、ここで大事なのは二院制ではない。委員会制度だ。

議場で野次が飛び用意された原稿を読み上げる光景は、本会議のものだ。これはほぼ儀式のようなもの。実質的な国会の機能は委員会にある。イギリスは本会議重視で議員全員で討議する。何と言っても議会制民主主義はイギリスが発祥と学校で教えられているから、イギリスのように日本でもやっていると想像してしまう。

ところがそうじゃない。日本の国会は、イギリス式じゃなく委員会を重視するアメリカ式なのだ。本会議は傍聴できるが、委員会は非公開。報道関係者などは委員長の許可を得れば傍聴できる。NHKが時々委員会の中継をする。イラクで3人の日本人が人質となり新聞各紙が大見出しで報道した4月19日も午後2時からNHKが衆議院の厚生労働委員会で年金改正法案について質疑の様子を中継した。もともと予定されていた生中継で小泉首相が参加していた。首相が出席する委員会は数少ない。だから放送されるのか、放送されるから出たのか、いずれにしても放映されるときは活発な質疑が交わされる。

衆議院には17の常任委員会と6つの特別委員会がある。常任委員会には、「外務委員会」、「法務委員会」、「財務金融委員会」、「文部科学委員会」、「厚生労働員会」などがある。名は体をあらわすで、各省庁の委員会だ。各省庁が所管する事項を審議したり、委員である国会議員が国政調査権を使って調査したりしている。

そんなんじゃつまらないと最近「国家基本政策委員会」というのができて、党首討論が行われている。毎週一回40分行われているが、あれも委員会で立派な国会だ。単なる弁論大会じゃない。

それぞれの委員会は、外務委員会が30人、厚生労働委員会は45人など定員があり、各党の議員比率(正確には会派の議員数に応じた比率)で定員が割り振られる。各党の国会議員はみなどこかの委員会に属することになる。

日本ではこれが中身のある国会審議で、ここで法案が通れば、議院運営委員会が他の委員会で可決された法案と調整して本会議に乗せるスケジュールを組む。

議院運営委員会は裏で各党の実力者である国会対策委員長が話し合って本会議のスケジュールを決める。だから、この時点ですでに各党が了承しているのだ。あとは、本会議のセレモニーを行うだけ。反対するほうも賛成するほうも本会議場ではお芝居。日本では党の決定に反して議員個人が反対や賛成を意思表明することは相当な覚悟が必要なので、本会議に乗ってしまえば成立ということだ。逆に言えば、委員会で採決されない法案は全く日の目を見ないことになる。

そこでだ、なにが問題かというと、田中真紀子流に言えばこの委員会は所轄の役所が事務方をしている。事務方というのは単にコピーをとったり、議事録を作成する訳じゃない。実質的には運営しているのだ。何が問題でどう決めるのか、そのストーリーは問題の歴史と背景を知っている官僚がやる。議員である委員はそれに従って紙を読んでいれば議員生活を安泰に過ごすことができる。なまじ逆らえば面倒なことになる。官僚を敵に回すと何も教えてくれないのだ。

だから、年金法案は厚生労働省の問題意識の中でしか浮かんでこない。それを委員たちは審議しているのだ。ところが、本当の問題点は社会制度の変化や男女の役割の変化など厚生労働省では解決できない問題が問題なのだ。国民が望んでいる年金改革はそういう国家的な改革なのだが、厚生労働省が上げる改革法案は、年金財源やグリーンピアの責任問題など自分の省庁で火元が迫っている問題を解決しようとするもの。官僚にとっては確かに重要なのだが、国民にとってはもっと根本的な問題を取り上げてほしいわけだ。

各省庁が作る法案は、エリートの集まりである内閣法制局で法体系に合うかどうか審査され修正されたあとで、内閣の会議である閣議で決定され、内閣総理大臣の名の下に国会に提出される。そのため「閣法」と呼ばれている。閣法は法案としてまとまるまでの間に、関係省庁との調整や利害関係の議員や財界などの調整をすべて官僚が取り仕切ってくれる。

一方、国会議員が自分で出す議員立法もある。衆議院では20人以上の議員の賛成があれば国会議員が法案を提出できる(予算が必要なものは50人以上)。しかし、それも法案作成の段階では議員法制局が行うことになるので官僚の筆が入る。

今回の年金関連法案も閣法が3法案ある。保険料を上げる政府案といわれているのもそのうちのひとつ。一方、年金の一元化をねらった民主党案は民主党の古川元久議員はじめ5名が上げた議員立法だ。

4月28日に閣法の3法案は賛成多数で可決されたが、民主党の議員立法は採決にいたっていない。日本の国会は一つ一つの会期が完全に独立していて、国会が終了すると採決されない法案はそこで命が終わってしまう。次の国会で審議してもらうにはもう一度最初から面倒な手続きを踏まなくてはならない。

現在開かれている国会は第159回で今年の1月19日から6月16日までの150日間が会期だ。その会期中に全部で178法案を審議することになっている。厚生労働委員会で可決された年金3法案のような閣法が127法案、民主党の年金一元化をうたったような議員立法が衆議院で36、参議院で15ある。だいたい7割が閣法で3割が議員立法だ。さらに成立する法案の割合は、閣法9割、議員立法1割といわれている。

重要法案には時間をかけたというが、審議されたのは厚生労働委員会でのこと。委員は45人だ。他の435人の衆議院議員はほとんどこの委員会の審議には参加していない。「議員の年金なんかやめてしまえばいいんだよ」と盛んにいっていた民主党の河村議員でさえ、改革法案については国会で議論はしていない。彼は法務委員会と予算委員会のメンバーだからだ。ほとんどの議員にとっては年金改革問題は自分の問題ではないのだ。

厚生労働委員会は2月から17回開かれたが、年金法案ばかり審議していた訳ではない。年金法案についてもまじめに審議していたが、しょせん官僚が提出した法案についていいとか悪いとか審議していただけで、その枠を超えることはない。それを超えるには対案を提出しないと議論がされない仕組みだ。今回は民主党が対案の議員立法を提出し、委員会の自民党議員からはすごいと評価されたが、結局は無視され採決に至らない。

委員会は原則非公開だ。だから、対案もよっぽどマスコミや国民の後押しがないと委員会で採決するに至らないのだ。現状の国会システムでは、与党が国民のためにと頑張らない限り、官僚の枠内だけの議論しかできない。日本の国会は官僚に占拠されているのだ。

2004年4月30日(金)

この記事の読者数:


参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2004

参考サイト:

衆議院

厚生労働委員会ビデオ

国会対策を上手にできる政治家が出世する

国会−国会の仕組みと法律ができるまで

衆議院TV