イラクで何者かに誘拐された三人は、まさに命をかけてイラクに行った。政府首脳が無辜の(罪のない)民間人にこのようなことをするとは許せないと言って一応に憤りを表明しているが、言われた三人は恐らく当たらないと思っているに違いない。
三人は危険を承知で勇敢にもまさに罪のない気の毒なイラク人のために危険な地に出向いた。このようなことになることは覚悟の上だったに違いない。それをそれ見たことかとばかりに、自衛隊をイラクから撤退させるべきだというのは政治的な発言だ。彼らにとってみれば、利用されていると思うだろう。
家族や親しい人からすれば自衛隊を一時撤退させても救ってほしいという気持ちは当然あるだろうが、大規模な移動を自衛隊員も命をかけて行ったわけで、それを動かすよりは、家族や友人が本人を説得して行くのを止めた方が格段に簡単だったはず。三人の行動は日本人として通常行っていた生活レベルのものではない。
自衛隊の派遣には目に見えるだけで5,500億円の金が使われている。もしこの金が別なところに使われれば、日本には救える命が三つ以上あることは間違いない。自衛隊の派遣について反対する時期はとっくに過ぎてしまった。いまさら自衛隊を撤退させる議論はできない。
とはいえ、同朋が無残な殺され方をされるとなれば、それを黙って見てはいられない。やはり、気持ちとしては一時自衛隊が撤退してまでも救出したいと思うのが大方の日本人の気持ちだ。じゃ、どうやって。
ひとつには、自衛隊の派遣は日米同盟のもとに行われた現実がある。だから、アメリカ軍に救出をあおぐ方法がある。しかし、これは日米安保条約に基づいて行われることになるだろうが、アメリカ軍が発動するのは、日本の施政下にある地域で日本が攻撃された場合に限られている。イラクは日本の施政下にはない。今回は日米安保条約は使えない。
アメリカ軍が頼りにならないとなったら、仕方がない、自衛隊だ。せっかくイラクにいるのだから、イラクを助ける前に、日本人が危ないんだから、それを助けないでどうする。自衛隊なんだから、日本人を守って当然。居場所を探り救出すべきだ。
ところが、自衛隊は「イラク復興支援特別措置法」でイラクに行っている。この法律によれば、イラク人への人道復興支援活動と米英軍を後方支援する安全確保支援活動にしか従事できない。日本人が危ないっていうのに、イラク人と米英軍のためにしか活動できない自衛隊なんて、とんまに間抜けだ。いったい誰のために我々は税金を払っているのか悔しい思いがあるが、自衛隊は動けない。
現状では、誘拐犯が本当に宣告どおりの行動に出れば、見殺しだ。そんなことでいいのだろうか。もし、アメリカ軍の特殊部隊が救出行動に出たり、日本の自衛隊がサマーワを出て何かの作戦行動をおこなったり、日本のマスコミが中東の衛星テレビの「アル・ジャジーラ」と組んで一大救出キャンペーン放送をしたら、日本国民は国際関係がどうであれ、法律がどうであれ、マスコミ倫理がどうであれ、拍手喝采だろう。
こうなれば、日米同盟の重要性が分かるし、小泉さんのいう自衛隊の軍隊としての役目も重要認識できるし、マスコミも御用マスコミと非難されることもない。
しかし、現実にはどれも起こりはしない。やっぱり日米同盟も国民レベルの小泉改革も正義の味方のマスコミもみんな幻だ。
じゃ、どうする。試されているのは市民の力だ。関係するNGO団体が、犯行グループと同じぐらいのメッセージをビデオ編集して、それを同じカタールの「アル・ジャジーラ」にインターネットを通じて送るのだ。
犯行声明の日付は西暦で書かれてあることが指摘されている。さらに、聖戦を示す言葉がないことから、アルカイダなどのイスラム過激派の武装勢力である可能性は少ないといわれている。恐らく、この犯行グループはバグダッドのアメリカ軍に虐げられた一般市民感情に近い人たちではないだろうか。
彼らの宗教観は日本人とは違い、同じ宗教の自由が与えれれているといっても日本人のように無宗教を選択することは習慣上ない。人間として宗教観がないというのが考えられないのだ。だから、イスラム教徒の中には経典に忠実な人もいれば、庶民感情に忠実な人もいて信者の幅は広い。
経典に忠実なイスラム教徒なら西暦ではなくイスラム暦を使うはずだし、自分たちの行動は経典に照らしても正しいと主張するのが当然だ。ところが、今回はそれがない。
となると、宗教的解釈や政治的行動より市民感情に敏感ではないだろうか。政府が何かを言うよりは、市民レベルが同朋の救出を訴えた方がはるかに効果がある。
バグダッドは千夜一夜物語の「アラビアン・ナイト」で有名な王様の話が出てくるイスラムにとっては栄華の都市だ。その繁栄はヨーロッパの繁栄どころではないというプライドがバグダッド市民にはある。ところが、アラビアン・ナイトで語り継がれた王様の時代の繁栄は、今日に至るまで衰退の一途をたどっている。
衰退のきっかけを作ったのは、モンゴルのチンギス・ハーンの孫だが、モンゴルにやられた後はペルシャにやられ、次はオスマン・トルコ帝国にやられた。ペルシャがまた取り返し、その仕返しでもう一度オスマン・トルコ帝国がやってきて3世紀。それからは、第一次世界大戦で石油の利権欲しさにイギリスに占領され、石油の利権をめぐりイギリスと戦い破れ、第二次大戦時には米英の駐留軍がいると同時にソ連への武器供与の中継基地となった。大戦後はイスラエルの独立宣言に反発しアラブ軍として参戦したが芳しくなく停戦。その後西側と仲たがいしソ連と友好関係を結びイスラエルへの攻撃を呼びかけ、フセインがこの後大統領になりイランと全面戦争になるという歴史だ。
この歴史は、イギリス人やアメリカ人に対し荒らされたという認識を強く植えつけている。日本人はそのアメリカ人に勇敢に戦いを挑み、長崎や広島に原爆を落とされるまで戦い、負けたもののその後見事に復興し、バグダッドにビルを建て、アメリカ製よりいい車を作って持ってきたりと、尊敬と憧れの的だった。なによりそういう大国日本が、バグダッドの地を占領しないということが彼らにとっては絶大な信頼につながっていた。
それを、あっさりアメリカ追随でイラクに軍隊を派遣したもんだから裏切られたという思いがことさら強い。しかも、そのアメリカ軍に都市ばかりか住宅も職場も奪われ、家族の命まで取られる人が多くなっては、その協力者に対して恨みを持たない方が不思議だ。
日本はもろ手を挙げてイラクに自衛隊を送ったわけではない。半数の国民が反対し多くの国民が疑心暗鬼のまま送ったのだ。まさに、政治的判断だった。日本政府ではこの点を主張することはできない。多くの日本人はイラク人に対し友好的だということをNGOが表明し、自衛隊がいやなら、一緒に撤退に向けて行動しようと呼び掛けるべきだ。予算が必要ならみんなで寄付をしようじゃないか。ただし、今回は命まではかけられない。
2004年4月9日(金)
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2003