「健康増進法」は「栄養改善法」のバージョン・アップ版だった訳だが、バージョン・アップされた際、何が変わったのか。追加された機能は何か、強化された点はどこか。これが「健康増進法」の重要なポイントだ。
追加された項目は、「受動喫煙」。人が多く集まるところでは、そこの責任者はタバコを吸った煙を誰かに吸わせないように考えろというものだ。これが実に唐突に見える。法律になじんでいない。「栄養改善法」に無理やり突っ込んだというのがすぐ分かる。
この条項にすぐに反応したのは、首都圏の私鉄8社だった。法律が施行される前から、全ホームの喫煙コーナーを撤去すると発表した。以降東京では豊島区が公共施設での喫煙を禁止し、その輪が広がりを見せてくる。
音頭とりの厚労省はどうなっているのかとの声に、施行から4ヶ月ほどたってようやく、じゃ「来年(今年のこと)の4月から省内は全面禁煙にする」と発表した。あんまり走りすぎるとタバコ税が減収になるので気を遣ったと取りざたが、そんなはずはない。もともと禁煙にする気なんかないのだ。もし、本気で考えているのなら、こんな守っても守らなくてもいいような条項は入れないはず。
じゃ、何のためにこんな条項を入れたのか。「健康増進法」を作ろうと厚労省がいい始めたのは、医療制度改革案を出したときだ(2001年9月)。高齢化が進み世界一多くなった老人が病院に行きだすと財政が破綻する恐れがあって、これを改革するのは厚労省の急務だった。介護保険制度はこの改革の一環でできた。
「健康増進法」と「医療制度改革」のつながりは、医療費増大を防ぐためには健康であるのが一番ということで密接につながっている。ところが、これが法律になるとまったくつながりようがないのだ。もっとも馬鹿らしいのは、「健康増進法」を作ったら人々が健康になるのかということだ。不健康が他人の健康に害を及ぼすのならそれを禁止する法律があってもいいが、そうではない。病気になると国の財政を脅かすから健康になりなさいっていうのは、問題の本質を取り違えている。しかも、国による個人の統率につながり、そんな法律が機能するはずがない。
恐らく厚労省はそんなことは先刻ご存知のはず。なのに、なんでこういう法律を作ったのか。怪しいのは、厚労省が以前からやっていた「健康日本21」という運動だ。1997年に予算請求を始めている運動だ。菅直人が厚生大臣のときだ。アメリカ流に運動の目標をスローガンではなく数値目標にしようというのだ。例えば、こんな具合だ。
一人当たりの一日の塩の摂取量を現行の13.5gから10g以下に減らす。
一日当たりの歩数を男9200歩(現行8202歩)、女8300歩(同7282歩)に増やす。
未成年者の飲酒を0%に。(この時点の調査では中学3年男子の25.4%が飲酒)
タバコの消費量を半分に減らす。
これらを2010年までに行おうという運動だ。マニフェストを想像させる菅さんらしい手法だ。これが小泉厚生大臣(現首相)に引き継がれている。タバコ半減の目標はタバコ業界の猛烈な反対で数値目標から消された。ところが、他の目標は現在も目標に向かって運動されている。
一見いいことのように思うが、これには莫大な費用がかかる。ちゃんと目標どおり成果が出ているか管理する人が必要だし、そのための調査費がかかる。いったいこんなこと誰が調査して、誰がその費用を払うのか。調査をするのは厚労省だが、実際に行うのは厚労省傘下の外郭団体、つまり厚労省の天下り先だ。費用を払うのは厚労省だが、そのお金は税金だ。
「健康増進法」はこの「健康日本21」という厚労省が音頭を取って進めている運動を法律的にバックアップするものだ。これで予算措置が取りやすくなった。「栄養改善法」から「健康増進法」にバージョン・アップあされた際、「健康増進事業実施者」なるものを作って傘下の団体を扱いやすくしたり、「登録試験機関」を増やしたり、立ち入り検査条項を追加したりして法律を「強化」したが、これらは厚労省の権限拡大につながっている。権限が拡大すれば、予算も取れるし、天下り先も増える。
例えば、立ち入り検査で悪いところを指摘し、それでも改善されなければ販売を中止させるというのが立ち入り検査の目的だが、どこをどのように検査するかは法律には書かれていない。厚労省の胸のうちで検査が行われるわけで、うまく検査を通そうと思ったら、胸のうちが分かっている人を社内に迎え入れれば楽になる。これが天下りの始まりだ。厚労省の「ファミリー企業」になってしまえば立ち入り検査でお咎めを受けることはなくなる。そのコストが、厚労省を退職し迎え入れた人たちに払う人件費ということになる。この人件費は商品価格に転嫁され、購入者が負担することになる。
こんな背景でできた法律だから、申し訳程度に「受動喫煙」の条項が入っているだけのこと。話題の中心をそらす煙幕の役目だ。マスコミがちゃんと騒いで「健康増進法」は禁煙場所を増やす法律だと宣伝してくれた。
「健康日本21」などという耳障りのいい運動には決まってマスコミも参加する。こういう健康とか生命に関する運動に反対の立場を取るのは難しい。非協力的だと厚労省の記者クラブからもコケになるはず。だから、この運動を非難するマスコミの記事はい。こういうからくりを直さないと日本人は永遠に個人として幸せになれない運命だ。
2004年3月5日(金)
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2003
産経新聞
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