中国の西北大学の文化祭で、日本人留学生3人が赤いブラジャーをし、下腹部に紙コップを付けて踊り、ブラジャーから紙くずを観客席にまいたところ、中国人学生や教師が怒って踊りを中止させ、翌日には千人以上の中国人学生が留学生寮前に集まり、日本人留学生3人と教師の計4人に謝罪を要求した。
事の顛末は以上だが、これが中国人の反日感情に火がついたとどこの新聞にも書いてある。はたして本当なのだろうか。
この事件の背景は、反日感情ではない。この前の珠海市で関西の建設会社が集団買春したときも対日感情が悪化したと騒ぎ立てられたが、そんなに中国人が日本人に対して悪い感情を持っているのなら、事件後、売春婦は屈辱のあまり自殺してもおかしくない。日本人留学生を多く受け入れていながら、中国には反日感情があるというのもおかしい。
今回の事件で、見逃してはいけないのは反日感情ではなく、次の二つだ。一つは日本人の性に対する感覚だ。国際基準からすると異常なのだ。もう一つは、中国は民主化が進んでいるとはいえ、共産党の国であることを忘れてはいけないということだ。
性に関してだが、戦後の日本人の性は、外国文化によって開放されたところがある。だから、日本人の感覚の中には、外国人の性は進んでいるという意識がある。
性というのは、本能的に起こる欲望だと思っているが、これが違う。性交渉をしたいという種の保持のための欲望は、世界中の人間が誰しももっている欲望だが、それだけなら猿と同じだ。人間の性は本能的なものだけではなく、社会的な部分が大きい。性に対する意識は、社会的な制約の中で生まれた感覚で、社会の違うところでは、性に対する意識が大きく違う。
この面では、進んでいるも遅れているもなく、ただ違うのだ。日本人の性に対する感覚はこの30年で大きく変化している。それは日本の社会が変化したからだ。
どのようにどう変ったかについてはまだ結論付けられていないが、一つ言えることは、世界の中でこれほど「性交」が不特定多数の人と行われ、「性器」が性表現の主要部分として活躍している国はないということだ。(調査資料がないので断定できないが、仮説にできるほど確信がある)
日本の大学の文化祭で、男が赤いブラジャーをして、性器に紙コップをかぶせて踊れば、あるいは受けるのかもしれないが、他の国でこの裸踊りが受け入れられるとは思えない。パリでもロンドンでもニューヨークでも総スカンだろう。アメリカのワシントン州では恐らく警察が出てくるだろうし、ジャカルタ、クアラルンプールなどイスラムの国ならそのまま監獄行きだ。政治ルートを使わないと出て来れないはずだ。
日本人のこうした「性非行」は特異なのだという意識がなかったために、留学生たちは平気で裸踊りをしたのだと思う。日本人の性にまつわる行動は明らかに国際基準の中では異常だ。なにも、反日感情が出るまでもないことなのだ。
次に、中国を甘く見すぎている。中国は民主化を着実に進め、市場主義経済も推し進めている。しかし、この民主化は共産党が行っている民主化で、体制そのものを人民が自由に選べる民主化ではない。いずれ共産党までなくなるような錯覚に陥るが、そんなことはまず当分ない。中国はイコール中国共産党なのだ。
中国で共産党を考えずに生活することはできない。今回の事件は、大学の文化祭で起こった出来事と思われがちだが、日本人が思い抱く大学の秋祭りだと思ったら大間違いだ。
古都西安の名門西北大学で行われた「文芸の夕べ」が今回の事件の舞台だが、この文化祭は、上海の中国系企業がスポンサーになっている一大イベントだった。歴史も伝統もある。さらに、企画運営は、中国共産主義青年団だ。
中国には、共産党と人民を結ぶ「大衆団体」というのがある。ここが、共産党の意思を全国に広め実現させる実行部隊になっている。極めて重要な国の柱だ。
産業界の「中華全国総工会」を筆頭に、教育思想の実行部隊「中国共産主義青年団」、女性を動かす「中華全国婦人連合会」、商工会議所のような「中華全国工商業連合会」などがそれだ。今回の企画者「中国共産主義青年団」はその中でも上位の組織だ。三月に国家主席になった胡錦涛氏は、ここの第一書記という華々しい履歴をもつ。共産党内で序列を上げるのに、中国共産主義青年団で重要なポストだったことはかなりのポイントになる。
いわば、中国共産党と直結した大学の文化祭で日本の留学生が裸踊りをしたのだ。これは、普通に考えれば、日本人留学生の行動に政治的な意味があると考えるのが当然だ。まさか、大変な騒ぎになって「軽い気持ちでやった」などと言い訳をしてとっとと日本に帰ってしまうとは思えない状況なのだ。
この状況の中で裸踊りをすれば、アメリカ人だってフランス人だってインド人だって抗議が殺到するのは間違いない。なにも、日本人がやったから集中抗議が行われたわけではない。
ま、アメリカ人もフランス人もインド人もこんなところでは裸踊りはしないけどね。
今回の事件で疑問なのは、日本人じゃなくても当然抗議が起こる出来事なのに、なんで、どこのマスコミも反日感情が高まったと報道したかだ。申し合わせのようにそう報道する。
留学生が裸踊りしたところまではバカな日本人の行動だったのだろうが、それ以降のデモと報道は中国共産党が操っていたと考えるのが自然だ。学生がすぐさま千人集まった抗日デモも警官の一言で解散するところがそこを表現している。中国はそういう体制の国だ。
2003年11月5日
このコラムに関する Sakakibara Street の論説
このコラムに対するほかの論説
参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2003
参考サイト: